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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)1218号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田多井四郎治の上告理由一ないし六及び上告理由補充書第一について。

所論の点に関する原審の認定は、挙示の証拠に照し肯認できる。所論は、原判決の違憲違法をいうが、その実質は、原審の専権たる証拠の取捨、事実の認定を非難するか、原審の認定外の事実を掲げて原審の判断を論難するに過ぎず採用できない。

同上告理由七及び上告理由補充書第二について。

原判決が、「本件土地は、その西南部は平坦な畑であるが、これに連る東北側の竹林部分は高さ二、三〇メートルの三八度ないし四〇度位の急坂となつていて、ほぼ北から南へ流れている琴川に接している。本件土地を含む附近一帯の土地は土質が軟弱で本件土地と同様の地勢であり、琴川の水面と現況畑となつている部分とは二、三〇メートルの高低があつて極めて深い渓谷をなしており、雨期増水の際琴川が氾濫し過去において流域の土地を押し流した例もあつた。そこで、附近の耕作者はすべて琴川に面する急坂部分に根張りのよい竹を植栽し、この部分を土手脚と称して土砂の崩落を防いでいる。そのため右竹林部分を農耕地の部分と分離して売買又は賃貸するような例も全く存在しない。訴外駒井久正もこの例に従い被控訴人(上告人)から大正年間本件土地を賃借後間もなく右急坂の部分に竹を植栽し、これが繁茂して竹林となり、少くとも本件買収処分当時から現在に至るまで土砂の崩壊防止に役立つているのである。」と認定したことは、挙示の証拠に照し肯認できるところであり、右認定の事実関係から、本件土地(一筆の土地)の竹林部分は現況畑の部分の土手脚としてこれと不可分一体をなすものと認めるのを相当とする旨及び右竹林部分の範囲が相当広くて現況畑の部分の地積と大差ないことは、右竹林部分が前示の極めて深い渓谷に面していることによるものであつて、右不可分一体と認めるに妨げとならない旨判示し、従つて被上告人国が右竹林部分をも含め本件土地を農地として買収した処分に所論職権濫用はないとした原審判断は首肯できる。所論は、原判決の違憲をいうが、その実質は、原審認定に副わないことを以て、原判決の前示認定判断を非難するに帰着し採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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